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地球規模のサスティナブルな世界を目指す最小限住宅

 

このブログは「E-TECH一級建築士事務所」の建築士中野剛(なかのたけし)の設計の忘備録も兼ねています。今回は、現在取り組んでいる伝統建築物「母と暮らす家」のレポートを書いてみたいと思います。

伝統工法にて「建て方」を実施

2019年11月29日と30日の2日間、さいたま市某所にて「伝統建築の建て方」が行われました。「建て方」とは建物の骨組みとなる柱梁を組み上げることです。

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・・・・これが、建て方完了後の全景 

 詳しくは「石場建て(近日公開)」の記事をご参照いただきたいのですが、地面と建物を固定しない、限界耐力計算による石場建て構法の二階建ての木造伝統建築で設計しています。

 石場建て、部材の接続に金物を使わない工法は高い知識と豊富な経験が必要となります。金物を使わないということは、木を特殊な形に加工し、接続するため組立てるにも高い技術と熟練度が必要となってきます。

 「建て方」は29日8時より7人の職人により行われました。内訳は、クレーン車1台のオペレーター、その他6人の大工さんになります。6人の大工のうちの2人、棟梁とそのお弟子さんが作ってきた部材を、気心知れた仲間の力を借りて組み立ててゆきます。

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大地を包括する生産住宅

今回の「建て方」では、狭い敷地内でいかに組み上げるかが大きな課題となります。この住宅は「地球規模のサスティナブルな世界を目指す最小限住宅」がメインテーマのプロジェクトです。また、サブテーマとして「生産宅地」を掲げています。そのため小さい敷地ながらも可能な限り大地を残しました。結果として敷地の南側に約半分の空地が残りました。そこにクレーン車を設置、資材は建物スペースの約半分に、残りの奥の半分から組み立てていく方法としました。

「生産宅地」とは

 

 工事の差配・段取りは全て親方の検討・判断・熟考の結果です。特にこのような伝統建築では、相互にかみ合ったり貫通したりしている部材の接合が複雑で、「木の特性を知る豊富な経験」と「組み立て手順の緻密な検討」が必要となります。図面屋の私には到底成しえない、高度な技術でした。そして、もう一つ重要なのがチームワーク……

複雑に切り出された部材たち

伝統建築

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 これが、「母と暮らす家」の部材です。分かりにくいかもしれませんが、よく見ると材木のあちこちに様々な加工がしてあり、適材適所に強度を保つ工夫がされています。

伝統建築には「通り符号」のルールが存在

ところで読者?の皆さんは建築図面を見たことがありますか?

今回の図面はこんな感じ……

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ここで注目したいのは、建物の周りに振られた「数字といろは」の記号です。

通り符号」と呼ばれるものですが、多くの一般的建築では決められたルールはありません。ところが伝統建築には通り符号」のルールが存在します。これが「建て方」の時にも大変役に立っています。伝統建築のルールでは、符号に使う記号が決まっており、原則その記号の位置も決まっています。ですから「はの3」といえばどんな建物でも同じ位置になります。これが重要で、建て方には今まで作業してこなかった他の工務店の仲間も加わります。初めての人でも間違いなくその場所が分かるのです。大勢で力を合わせて作業するには、この共通認識は大変に有効です。

実際の作業はチームワークが重要

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 これは長さ約9mの大梁をクレーンを使い設置しているところ・・・

クレーンを操作する人、梁を据え付ける大工、そして下から全体を見て指示を出す親方と7名全員が協力して作業に当たります。

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 そして、「掛矢(かけや)」と呼ばれる大きな木づちではめ込んでいきます。5人の大工が声を合わせ叩き込みます、下からは親方が左右のバランスを指示します。貫通部分に遊び(すきま)がほとんどないのでバランスを取りながら叩き込まなとはめ込むことが出来ません。このようにチームが一つになって作業に当たらないと組み立てることが出来ないのです。特に伝統建築では接合部が貫通しあう部分が多く一人で作業することが困難で、協働作業が非常に大切なのです。

 親方の元、気心の知れた職人の方達の「チームワーク」で組み上げられていく家を、この目で、耳で、実感を持って知ることのできた、貴重で充実した2日間でした。

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