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伝統工法の欠点・デメリット

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 こんにちはさいたま市で伝統構法の普及活動をしているイーテック一級建築士事務所の中野剛です。伝統構法の良さについてはインターネット上でもたくさんの情報を見つけることができますが、伝統構法の欠点・デメリットについて詳しく言及している人は少ないので、私が書いてみたいと思います。

確認申請が困難

 伝統構法の欠点として「建築確認の許可申請が難しい」ということがあげられます。

 粗悪な住宅が広がりつつあった昭和初期に、安全に住める家の基準を設けるために建築基準法が制定されました。金物を使って部材を補強し、筋違なども使い、当時としては丈夫な建物を建てる工法を「在来工法」と呼ぶようになりました。そして、時代の流れとともに在来工法を基準とした法改正が積み重ねられてゆきました。

 その過程で「伝統構法」の法整備は後れをとってしまいました。つい20数年前(1996年)までは、伝統構法での建築は法的に認められていませんでした。構造がシンプルな「在来工法」は、その構造の計算も画一化されており、容易ですが、「伝統構法」はコンピュータがない時代には構造が複雑すぎて、そもそも構造計算できなかったのです。

 そのため、伝統構法による建築が一応建築基準法で認められた現代においても基準を決める側も、申請を通す側も、その計算の複雑さに翻弄され、なかなか伝統構法の建築物の確認申請が通らない現状があります。

 現在の建築基準法では、貫や足固めの強さが過小に評価されていたりしたため、私たち有志は「伝統構法」の法整備・法改正のために活動していますが、現在はまだまだ「伝統構法」の技術に法律が追い付いていない状況です。

 現在の建築法は「在来構法」に準じているため、イレギュラーな伝統工法の「構造計算」の確認申請を通すためには、非常に緻密な計算をする必要があり、その計算や許可申請に、お金と時間がかかってしまうのが現状なのです。

工事や確認申請の期間が長い

 在来工法で家を建てる場合は早くて4か月で建ってしまいますが、私の知るところでは土壁の伝統構法の家を建てる場合は1年から1年半かかってしまいます。何故そんなにも時間がかかってしまうのかというと、二つの理由があります。

 一つは上記の内容と重複するのですが、確認申請に非常に長い時間がかかるということがあります。構造がシンプルな在来工法の住宅は早ければ2週間~1か月で確認申請が終わりますが、構造が複雑な伝統構法の住宅は構造計算が複雑で計算自体に時間がかかったり、二重チェックが入ったりするため、役所との確認申請のやりとりだけで1年~1年半かかってしまうのです。

 二つめの理由は、伝統構法はその建築作業自体にも時間がかかることがあげられます。木組みで組まれる材木は職人がひとつひとつ手作業で削っていくため在来工法よりはるかに時間がかかってしまいます。また、伝統的な土壁の素材は土と藁を混ぜて数か月間発酵させる必要があったります。ひとつひとつの作業が機械化されておらず、人の手で時間をかけておこなわれるので工期が非常に長くなるのです。

冬が寒い

 伝統構法の特徴として「土壁」であることがあげられますが、断熱材を使わない土壁の外壁は非常に寒いです。古典的な伝統工法は、床下や天井裏に隙間が多くなる作り方なので、断熱性能がよろしくありません。また、古民家に使われるような昔ながらの建具は隙間が多く、風通しが良いので夏の暑さには比較的に適応しているのですが、冬は隙間風によって非常に寒いのが特徴です。

 ただし、この「寒さ」は、昔ながらの伝統構法に忠実な「本物の古民家」を建てた場合のみの話です。現代の技術を使えば断熱性能を向上させることは容易で、実際には現代社会では家の構造のみ丈夫な「伝統構法」とし、断熱材や窓枠などは最新技術のものを取り付ける、「伝統の構法」と「最新技術」のハイブリッドの家を建てる施主がほとんどです。

 ですから、昔ながらの伝統的な土壁のみの外壁にしたいというのでなければ、性能の高い断熱材を外断熱で使用し、土壁は「蓄熱材」として利用することで伝統技術と最新技術の融合した合理的な家を建てることが可能なのです。

技術の高い大工(工務店)を探すのが困難

 伝統構法で家を建てるには一定以上の技術が要求されるため「技術の高い大工さん」を見つける必要があります。近代の在来工法の住まいしか作ったことがない大工さんでは、伝統工法の住まいを作ることは不可能です。

 「伝統構法」は、金物の留め具を使わずに複雑な形に削った木を組み合わせた構造になっていますので、木を複雑な形に削ったり、組み合わせたりする知識や技術を持っている大工でないと、建てることができません。

 また、伝統構法では良質な木材を見極める目を持った大工、工務店が必須になってきます。どのような木質の木を何年乾かして良質な材木にしていくか、といったような材木の目利きも伝統構法の大工の重要な能力のひとつと言えます。

 「伝統構法」は大工の技術に左右される構法ですので、腕の良い職人を見つけることが大切になってきます。伝統構法ができる職人が減っているという現実も踏まえると、伝統構法の高い技術を持った大工(=工務店)を見つけるのが困難なことも、伝統構法のデメリットと言えるでしょう。

在来工法と比較すると費用が割高

 日本の杉やヒノキが安くなったとは言っても、輸入材や集成材よりは高価です。また、複雑な方に削る手作りの部分が多いので時間も手間もかかります。現代において最もコストがかかるのは人件費なのでかなり工事費が割高になります。

 工期が長くかかり工事費も高い上に、確認申請にもかなりの時間と費用がかかるので、在来工法と比べると総コストが非常に割高になってしまいます。

 ただし、伝統構法の家は100年以上もつ丈夫な家なので、孫の代まで存続すると考えれば、初期費用はかかるものの、長い目で見れば経済性は高いと言えます。

まとめ

 伝統構法の設計の現場から、正直で率直な意見を述べるとしたら以上のデメリットをあげることができます。伝統構法の欠点をまとめると、問題は人材、法的手続きの面で「作りにくい」ことだと言えるでしょう。

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