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伝統構法コンセプト住宅「母と暮らす家」見学者の感想(さいたま市K様)

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 今回、イーテック建築士事務所のモデルルーム「母と暮らす家」を見学させていただいたので、感想を一筆書かせていただきたいと思います。

 私の場合は、伝統構法についていこのブログを読みこみ予習をし、上記のモデルルームのコンセプトについてずいぶん親切な説明をいただいてから「母と暮らす家」を見学させていただいたので、ずいぶんと趣深い気持ちで拝見させていただきました。

コンセプト通りの設計

 施主さんが最も最重要とした課題は、持続可能な世界を目指すための「サスティナブルな建築物」だと思います。

 地球にやさしく、持続可能な社会に貢献する建築物とはどういった形態であるべきか、大いなる自然の力を最大限に利用しながら、石油エネルギー源に頼らない建築とはどうあるべきか、非常に考えられた設計になっていると思いました。

伝統構法から得られる性能

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 「伝統構法」の石場建てで免震性を確保し、木組みで組まれ一体化したうわものが地震の際には石の上を滑り、地震での倒壊を防げる造りになっていることは非常に興味深かったです。さらに「伝統構法」の土壁を蓄熱材として利用し、壁の外側に断熱材を配置することで、内部の暖房や冷房の熱を逃がさず、外部からの熱気や寒気を遮断する仕組みも興味深く拝見しました。

 伝統構法では柱や梁がむき出しになっているため、特に屋外に露出した部分はどんなに配慮をしても傷んでくるようですが、むき出しになっているからこそ、早期発見でき、早期に修復できるという説明は目からうろこでした。

 ほかにも、上記のフローチャートにあるように、正方形や長方形の「整形」の建物にすることで、建物のどこかに偏った力がかからないよう考えられていたり、建物の背を低くすることで安定した重心になるように考えられていたり、耐震、免震に対する配慮はすごいと思いました。

省エネ性能の高い最小限住宅

 施主さんが地球環境への負荷を減らすことを最も重要に考えて建てたこの家は、かなりこじんまりとしています。私自身も所得が低かった時期に小さな部屋に住み暖房冷房の費用を最小限に抑えていたので、それぞれの部屋の大きさを最小限に押さえることの省エネに対する貢献度は高いと知っています。ですが、それは居住空間の圧迫感というデメリットと引き換えなので、むつかしいところではあると思います。

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 生活スペースを最小限に抑えることで冷暖房費を抑え、土壁を蓄熱材として利用し、グラスウールで外断熱という構成は、省エネという観点から見ると、非常に有効だと感じました。

 また、季節の良い時期はエアコンを極力使わないで済むように、窓の配置や形状を工夫し、どの部屋も風が通り抜けるルートを確保してあることにも感心してしまいました。一つの部屋に窓を二つ以上設置し、一方は風を取り込むための「ウインドキャッチャー」という窓にし、一方は風を逃がすための窓にしてあり、これに扇風機などを取り入れれば、春、秋はかなり光熱費の節約になるのではないかと、節約主婦目線では思えました。

 将来的には太陽熱の給湯器を設置するために南側を大屋根にしたというのも節約主婦目線でみると非常に興味深いお話でした。

家族が仲が良いこと前提の間取り

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 施主さんの意向で、こじんまりとしたたたずまいになっている「母と暮らす家」は、老いた母に一部屋、夫婦に一部屋、子供二人に一部屋と、かなりスペースを最小限に抑えた造りとなっていました。リビングは吹き抜けで天井も高く、それなりの面積があるので、おそらく施主さんの意向としては、リビングに家族が集って活動し、自室は寝るだけの場所と捉えた可能性が高いと感じました。

 家の間取りというのは、各家庭のライフスタイルの個性が出やすいものです。家族だんらんを重視するファミリーは玄関を開けてすぐにリビングがあり、帰ってきた家族の顔をすぐに見られる間取りにしたり、プライバシーを重視するファミリーは誰にも会わずに自室に帰れる間取りにしたりします。「母と暮らす家」は典型的な前者で、玄関を開けたら誰かが「おかえりー」と声をかけてくれるような、そんなたたずまいの家でした。

 施主さん自身の思想信条は「足るを知る」だそうで、広い部屋やたくさんの持ち物、華美な装飾は必要ないという思想信条を元に設計された間取りなので、こじんまりとしているとも言えます。施主さん自身が地球環境に配慮した生活スタイルを意識しているため、地球環境のためなら多少は人間側が不便を許容しようというスタイルの家だという説明も受けました。

早期発見・早期治療で長持ちする家

 在来工法の家は安いものだと30年で立て替え、しっかりメンテナンスすれば60年くらいは持つと言われています。それに比較すると「母と暮らす家」は伝統構法で建てられているため早期に傷んだ部分を発見し、早期に修復すれば120年以上は持つという説明を受けました。

 在来構法でも、結局は10~20年に一度外壁の塗装に100~200万円、屋根のふきかえに100~200万円、そのほかに設備の老朽化に数十万単位でお金がかかるので、伝統構法の家を修復しながら使うのとどちらがコストパフォーマンスが良いかは、正直、私では分かりません。

 ですが、「せいくらべ」の歌のように「柱の傷はおととしの五月五日のせいくらべ」といったように、柱の傷が代々の思い出として受け継がれるような、家族仲の良い家族の歴史を刻むには、100年以上建物が存続するということは大きな意味を持つのだと思いました。

短所があるとすれば

 「母と暮らす家」はコンセプト住宅であり、施主さん自身の「家族仲の良い、あまりプライバシーを必要としない家族構成、家族関係」のファミリー像を主軸に設計されています。ですから、何かの理由で売却するとなった時に、買い手を選ぶ物件となってしまいそうな気はしました。

 施主さんは家族5人で居住することを前提に建てたようですが、3LDKの間取りで5人が住まうのは、かなり家族仲が良いか、全員が仕事や学校で出かけていてあまり家にいないことが前提でないと厳しいのではないかと感じられました。ですが、もう少し人数の少ない家族構成ならそれなりに住み心地の良い家になりそうではありました。

 また、伝統工法は高い設計力・技術力を必要とするため、非常に高価な建築方法だそう。ですから、やはり建設費用が大きな課題と言えそうです。

まとめ

 費用面では割高な「伝統構法」のサスティナブルな家。家族仲が良く、孫の代、ひ孫の代まで、それぞれの家族の身長を柱に刻めるような家族の歴史や思い出を長きに渡って詰めこめる家。そんな家を持ちたいという方には100年以上の歴史を刻める「伝統構法」の家は有用だと思いました。