↑石場建の柱と礎石(浦和くらしの博物館民家園)
こんにちは。イーテック一級建築士事務所の中野剛です。今回は伝統構法の特徴のひとつである「石場建て」のメリットについて書いてゆきたいと思います。
石場建・石場立の歴史
さて、石場建のメリット・デメリットを語る前にその歴史を振り返ってみたいと思います。
詳しくは上記の 京都大学生存圏研究所のレポートである「木造建築千年の技術 北守 顕久2015 年9 月30 日作成」をご覧ください。専門的な内容ではありますが、とても参考になると思います。
古代の建築はまずは掘立造から出発しました。木材を精緻に加工する技術が無かったので、架構を構成するためには部材同士を引っかけ、縄で縛り留めつけます。それだけだと構造が安定しないため、柱の根元を土中に埋め込み、土圧によって安定させる構造です。現代でも伊勢神宮の構造などで目にすることができます。掘立構造の部材には耐久性の高いクリ、またはヒノキの心材などが用いられました。しかし長期間の使用には耐えることができません。伊勢神宮でも20 年定期の式年遷宮によって更新されています。
※木造建築千年の技術より抜粋
そこで地盤上に設置した礎石上に柱を立てる構法に変わりました(礎石造)
石場建のメリット1 耐久性
↑三内丸山遺跡のクリの掘立柱
上記にあるように、古代の建築は柱の根元を土に埋め込む堀立構法でしたが、じかに木を土に埋めると、当然木が腐るのも早くなり耐久年数が短くなるため、耐久性向上のための技術として土の上に石を置きその上に柱を建てる「石場建」が生まれたわけです。
↑古代工法を守るため20年ごとに建て替えを行う伊勢神宮の「式年遷宮」
古代の堀立構造の伊勢神宮の耐久年数は20年で20年ごとに建て替えが行われています。つまり、堀立構法の耐久性は20年程度が限界ということうです。反対に、石場建てで建てられた法隆寺は1300年の歴史を経て現存しています。現在でも、石場建ての構法は古い神社やお寺の足元周りで見ることができ、その歴史が石場建の耐久性の高さを物語っているとも言えます。
石場建のメリット2 免震性
1300年現存する法隆寺五重塔
もうひとつの特徴は免震効果が期待できるということです。土に埋め込まれた掘立柱や、現代のコンクリートの基礎に固定された柱は地震の力を直接受けることになります。
ところが石の上に柱が置かれているだけの石場建の建物は、現代で言う免震構造と同じ原理で石の上をすべることで地震力を逃がすことが可能なのです!すごいと思いませんか!現代の最先端の構法が太古からあったなんて……
だだし、私見ですが古代の人が免震を意識して石場建にしたかは疑問が残ります。
しかし長い歴史の経験の中からだんだんと自覚的に使用されてきた例もあったと思われます。長い歴史の中で大きな地震を受けても壊れずに現代まで残っている建物がそのことを証明しています。ただし、壊れた建物も数知れずですが……
原理的には、石の上に置かれた「(木組みで)一体化した建物」が地震時に建物ごとスライドして地震力を受け流すはずです。どのような条件ならそれが可能なのか?
そのための研究が「伝統的構法の設計法作成及び性能検証実験」検討委員会により行われ、色々なことが分かってきました。また、またこのような地道な実験の積み重ねにより、「伝統構法」の構造について建築基準法にも明記されるようになり、伝統構法の建築物を合法的に建てることが出来るようになりました。つい最近までは一部の文化財等を除き、日本の誇る木造技術(伝統構法)は違法だったわけです。
ただし、「伝統構法」は未だに完全に解明されたわけではなく、「伝統的構法の設計法作成及び性能検証実験」検討委員会の研究成果は中途半端な状態で現在に至っています。きちんと構造計算のされていない、安易な石場建は免震工法で無い一般の在来工法より危険といえるかもしれません。
石場建のメリット3 修繕性
掘立柱に比べればはるかに耐久性の高い石場建ですが、石と接する柱の断面は弱点になっています。一番濡れやすくまた柱の断面は導管があり水を吸い込みやすいため、木が腐りやすい条件がそろっているのです。
↑修繕された石場建の柱(浦和くらしの博物館民家園 安政5年(1858年)建設)
ただし、柱が外から見えるため傷んでしまった時に早期発見・修繕が容易であるのも石場建のメリットです。古い建物では足元の柱の一部を取り換えたものを見ることがよくあります。
↑石場建ての柱が雨で塗れないためのひさし
※イーテック一級建築士事務所の設計では足元周りの柱の断面は塗装することで導管からの水の吸い込みを防ぎ耐久性を向上させています。また、礎石の上にひさしを設け、柱が雨に濡れることを防ぐ設計もほどこしています。
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