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【伝統構法の基礎知識】石場建の欠点・デメリット

 こんにちは。イーテック一級建築士事務所の中野剛です。何事にも長所と短所、メリットとデメリットがあります。前回は石場建てのメリットを書いたので、今回は石場建てのデメリットについて正直に書いてみたいと思います。

確認申請に費用と時間がかかる

 伝統構法の石場建てはまだ未解明な部分が多いのですが、建築基準法では特別な構造計算を行うことで初めて建てることが認められます。その代表的な構造計算が限界耐力計算です。現在、住宅建築で石場建を実現しようとしたら、この限界耐力計算をして役所の確認申請を通すほか方法はありません。ですが実際には、この具体的計算方法の指針がまだまだ明確にはなっていません。

 構造の接続部分が複雑であることや、様々な加工方法があること、使用する木や土などの種類も様々でかつ自然素材ゆえにばらつきがあることなど、画一化=単純な構造計算モデルとするのが難しく、多くの実験することで確認するしかない状況です。

 そのため、その画一的ではない構造の耐震・免震性能を検証し、法整備につなげようとしたのが国土交通省の「伝統構法検証委員会」のプロジェクトでした。このプロジェクトの実験で、多くのことが明らかになったものの、現在、これらの実験の成果が法律に反映されるまでには至っていません。国土交通省のプロジェクトであるにも関わらず法律に反映されなかったことは歯がゆくもありますが、公的機関だからこそ厳格な手順を踏む必要があるのかもしれません。

 そして、石場建てに関する法整備は建築研究所預かりになったまま、もう数年がたってしまいました。ですから「石場建て」の構造計算法が建築基準法に明記されない限り、石場建ての確認申請は通りにくいままなのです。

 建築基準法に石場建ての構造計算方法が明記されないため、有志によって私的マニュアル石場建てを含む木造建築物の耐震設計・耐震補強マニュアル」が出版されました。そして今後、建築基準法と実際の構造計算をつなぐマニュアルとして期待されていますが、現在は日本建築技術者協会関西支部作成のマニュアルを参考に石場建ての確認申請を行なっています。

 実際の限界耐力計算による確認申請の体験談は、別の記事で紹介したいと思います。

 このように伝統構法の限界耐力計算は私的なマニュアルはあるものの、公的に定まった様式がないため、法的な確認を一つ一つ検査機関と行いながら進めていくことになり、様々な検討を行う必要があるのです。そのため、一般的な確認申請期間の2週間に比べ(特に関東では)1年近くの時間がかかります。また高度な計算のため二重チェックが必要となり、申請費用も4倍近くかかってしまうのです。

石の設置のむつかしさ・費用の高さ

 伝統構法の石場建てでは、礎石をしっかりした固い地盤、又はコンクリートの上に水平に設置する必要があります。「母と暮らす家」では、礎石をコンクリートの上に水平に設置するために特別な装置を作ってもらいました。

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礎石を支える支持装置

 こんな感じです。4本の支持材を鉄筋で溶接し4本脚が一体となっています、この装置は基礎工事屋さんに考えていただきました。

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測定器を使って水平にしているところ

 そして石の上面が同じ高さになるように測定器を使いながら慎重に礎石をセットしていきます。礎石の材料は、耐久性と強度のある御影石が使われます。

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設置された御影石

 石場建てでは、このように在来工法では使わない御影石などの高価な材料を使うため費用が多くかかってしまいます。また精度が必要なこまかい工程も多く、工期が長くなるため、工事費も多くなってしまうのです。

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コンクリートが打たれた状態

耐震性の確保のむつかしさ

 石場建には免震効果があるのは事実ですが、石場建てで建物が免震性を得るためには建物に一体性が求められます。建物の構造がしっかりと組まれて足元がバラバラに動くことなく、礎石の上をすべることで建物が免震性を得ることができます。ですから、上に乗っている建物が一体化していることがとても重要なのです。一体化していない建物は「また裂き状態」になって崩壊してしまいます。

 石場建だから安全なのではなく、注意深く耐震性に配慮した石場建のみが耐震性を持つことが出来るのです。過去、伝統構法の住まいも大地震で相当な被害を受けてきました。建築の法制化の契機となったといわれる濃尾地震の時には、ある村の全壊率は99%だったといわれています。倒壊した建物は、「地震への配慮を欠いた伝統構法」で建てられた建物だったと言えます。

 このように、構造力学がきちんと計算されていない、建築作業がきちんと監督されていない「安易な伝統工法」「安易な石場建て」は、耐震性は期待できず、むしろ非常に危険だと言えます。

耐久性・修繕性に配慮した設計が必要

 掘立柱に比べてはるかに耐久性の向上した石場建ですが、腐朽から完全にフリーになったわけではありません。またシロアリの被害も同様です。雨がかかったり湿気がたまりやすい状況ですと、在来工法に比べても耐久性が劣ってしまいます。

 設計をする段階で、柱の足元周りの風通しの確保、雨掛かりの防止対策が不可欠になります。そして、不幸なことに被害を受けた場合には、容易に発見でき、修繕しやすい設計にしてあることが重要です。無配慮な石場建ては耐久性も期待できないため、耐久性に配慮し、修繕性も高い設計ができる建築士事務所に設計を依頼する必要があります。

まとめ

 石場建て、木組み、土壁の構造は伝統的に受け継がれてきた構法ではありますが、計算しつくされて建てられた、あるいは地震に対して深い洞察と配慮で建てられた「丈夫な造りの伝統構法」もあれば、地震への配慮を欠いた「安易な造りの伝統工法」もあり、その両方の文化が現代にも引き継がれています。

 ですから「安易で危険な伝統工法」ではないですよ、ということを証明するために、限界耐力計算で実際の安全性を役所に指し示し、許可をもらう必要があるのです。

 つまり、石場建てのデメリット「精度の高い構造計算や建築技術」を必要とするため、確認申請期間や工期が長く、人件費が高くなり費用も高くなることだと言えるでしょう。またそれに付随して、その安全性の根拠となる複雑な計算ができる建築士、精度の高い作業のできる大工を見つけるのも困難であることが、石場建てのデメリットと言えるでしょう。

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