E-TECH一級建築士事務所

埼玉の伝統構法設計・イーテック一級建築士事務所

【記事一覧】
伝統構法の基礎知識
動画で見る伝統構法【初心者向け】
設計実績「母と暮らす家」コンセプト
全ての記事

伝統構法とは

 豊かな森に恵まれたこの国では縄文時代以前より、木の文化が脈々と根付いており、木を使った様々なものが作られてきました。その木の文化の集大成が「伝統構法」なのです。

 現在でも国土の67%は森林です。この木や土、草を使って昔の建物は作られていました。世界最古の現存する木造建築である法隆寺は1300年以上の歴史を刻んでいます。伝統の知恵を用いて建てられた木造建築物の耐久性は歴史が証明しています。

 自然の恵みを最大限に活かし、長きに渡り使い続け、そして土に還す。持続可能な社会へのヒントとなる循環がここにはあります。

伝統構法とは

 伝統構法の定義はいまのところ曖昧で、飛鳥時代から現代にいたるまで蓄積されてきた建築技術を伝統構法と呼び、その伝統工法を元に生まれた在来工法と区別するために、「伝統構法」と「在来工法」に分けて、名前がつけられた言ってよいかもしれません。

 そもそも日本の建築構造は、古代の竪穴式・高床式住居、掘立造、飛鳥時代からの石場建てなど、様々な構造の変遷を経て現代の在来工法に至っています。ですから、どの構法をもって「伝統構法」とするかは非常にむつかしいところです。

 現在インターネットなどで「伝統構法」と呼ばれているのは、古いものでは飛鳥時代の法隆寺、室町時代の犬山城、江戸時代の桂離宮、明治時代の京町家などで、共通して見られる構法のことを指しています。

  • 石場建・石場立
  • 木組み(仕口・継手・貫・こみ栓など)
  • 土壁

 「伝統構法」の明確な定義はまだ議論されているところですが、2020年現在において「伝統構法」の特徴として挙げられているのはこれらの特徴です。ですから、現時点では、これらの特徴を持った構法が「伝統構法」と呼ばれているのです。

伝統構法の三つの特徴

 上記の三つの特徴について簡単にご説明させていただきます。別途、詳細を説明したページも用意しておりますので、もっと詳しく知りたい方は詳細ページもご覧ください。

石場建て

f:id:etech:20201001123313j:plain

 石場建ての由来は、柱を地中に埋めて安定させる掘立造では木が腐ってしまうため、石の上に柱を乗せ始めたというところから始まっています。古代や中世の人達が耐震・免震を意識して石場建てを考えたとは思えませんが、宮大工のいる寺社仏閣のなどでは脈々と地震に備える造りの伝承が行われていてもおかしくないと言えるでしょう。

 在来工法では、コンクリートの基礎と柱の根元をアンカーボルトで固定します。ですが石場建てでは、石の上に直接柱を立てます。普段は建物の重みで安定し、地震の際は地面が揺れても、柱と礎石が固定されていないことで建物だけが滑り、揺れを吸収してくれるのです。

「石場建て」をもっと詳しく!

木組み

 釘などの金属を使わずとも、しっかりと木と木をつなぐ「継手」「仕口」という技術が「木組み」です。金属を使わないことで結露やサビによる木の腐朽を防ぎ、木の寿命以上に使い続けることが可能となっているのです。継手・仕口を使って木を組み上げた構造体は現代にも通用する機能と美しさを備えています。

f:id:etech:20201001122658j:plain

 この写真は、柱と大梁をつないだ仕口部分です。釘などを使わずに、木を加工し組み合わせることで柱と大梁の強度を確保しています。飛び出ている二つの部材は「込み栓(こみせん)」と呼ばれるもので、最後にこれを打ち込むことで組み合わせた木を固定します。

真壁づくり

 柱や梁が壁の中に隠れていない真壁(しんかべ)という壁の作りは、湿気から木を守り、またメンテナンスがしやすい優れた仕組みです。伝統構法には、このような建物を長く使うためにメンテナンスがしやすい仕組みが備わっています。

f:id:etech:20201001123751j:plain

 この写真はかやぶき屋根を取り換えているところです。柱や屋根など、材料の寿命に合わせて定期的に交換できるサスティナブル(持続可能)な設計になっているのが伝統構法の特徴なのです。

土壁

f:id:etech:20201001123346j:plain

 土壁は現代の壁と比べて、作るのに大変な労力と時間を要します。藁と土を練って数か月発酵させる必要があるからです。ですが、上手く使えば土壁の調湿機能や蓄熱機能が室内環境を向上させます。

 断熱性能はスタイロフォームのような石油材料には劣りますが、しっかり作り込めば、それなりの性能を発揮することができます。それゆえ、昔建てられた厚い土壁の蔵などは相当な断熱性能があるのです。

現代、伝統構法に期待が寄せられている

 これまで述べてきたように、伝統構法は優れた機能をそなえており、建物の長寿命化が求められている現在、非常に示唆に富んだ構法と言えます。

 しかしながら、その自然素材ゆえの不均質性、いくえにも組み合わさった複雑な構造など、現在の科学の力では推し量れないものもあります。それゆえに長い間、科学の対象外とされてきました。

 科学で立証できない≒法律で認めるわけにいかない=非合法という論理で、文化財以外は伝統構法で建物を建てられないという状況にありました。ですが、約10年ほど前に各方面の声を受けて国もやっと重い腰をあげました。Eディフェンスという世界最大の加力実験装置による実験が行われたのです。

 

Eディフェンスでの実験の模様

 

 伝統構法を未来につなぐにはまだまだ道半ばですが、世界の未来のために、持続可能な社会のために、多くの伝統構法の知恵が引き継がれることを願ってやみません。