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木材の腐朽について

 

(黒い色がカワラタケ)
・・・シロアリの続きは後ほどで・・・・

木材の腐朽について

はじめに、木造建築の耐久性についての概観・・・・・・


日本の木造建築の歴史は古く、維持のために補修をくり返した結果、法隆寺などは千年以上の時間を経てもなお現存しています。また、各地に残る古民家などでも築後数百年という建物も少なくありません。昔の家の柱は4寸角を使い、このような太い柱では、数回根継ぎが可能でした。3寸5部で2回位、3寸になれば1回などと言われており、このような手当をすればかなりの期間、建物としての機能を維持できることが知られています。(出典:木を活かす建築推進協議会 木造建築の耐用年数(木造建築の寿命は短くない) 裏鳥しろ!!!💦)

 

また海外に目を向けると、代表的なものの一つにハーフティンバー様式と呼ばれる木造建築があります。フランス北部の発祥とされるこの様式は、イギリス、オランダへと伝わりドイツで成熟期を迎えました。現存する建物の多くは15〜17世紀に建てられたもので、古いものは12〜14世紀のものであります。現存する建物は新旧合わせて250万戸ともいわれ、どの村に行っても必ずハーフティンバーの建物があると言われるくらい一般的なもので、おそらく維持管理に関わる職能たちも健在であろうと考えられます。

木造建築のポテンシャルの高さがうかがい知れると思います。

 

以上のように木造建築は修理が容易で寿命を相当長く伸ばすことができ、改修も比較的容易であり長く住み続けるのに適した構造形式と言えるのではないでしょうか。

 

一方で、木材は不適切な環境の元では急激な劣化を生じる場合もあり、その代表がシロアリであり腐朽です。今回も前回に引き続き「シロアリ及び腐朽防除施工の基礎知識」(日本しろあり協会)を中心に調べたことをまとめてみました。

 

  • 腐朽とは何か?

腐朽とは、微生物が特殊な酵素類を分泌して木材の化学成分を分解し、自身の栄養源として摂取することにより比較的短い期間に木材の組織を破壊して激しい強度の低下が生ずること。

 

  • 腐朽菌の種類

建築では木材利用の観点から、腐朽の様相で腐朽菌類は以下の3種類に大別されています。

①木材の外観が褐色になるものを褐色腐朽と呼び、褐色腐朽菌類が原因です。

②木材の外観が白色になるものを白色腐朽と呼び、白色腐朽菌類が原因です。

③木材の表面が軟化するものを軟腐朽と呼び、軟腐朽菌類が原因です。

 

① 褐色腐朽菌類

担子菌類(キノコが代表的)に属し、針葉樹材を好んで腐朽するものも多く、木造建築にとって重要な害菌となるものが多い。木材の主要成分であるセルロースやヘミセルロースを分解するが、リグニンをほとんど分解しない。腐朽初期にセルロースの重合度(セルロースの構成単位であるブドウ糖の繋がり個数)を著しく低下させます。

代表的な褐色腐朽菌の一つにオオウズラタケがあります、日本工業規格の木材の耐朽性試験体として使われています。

 

② 白色腐朽菌類

ほとんどが担子菌類に属し、野外で倒木や枯れ枝に発生し、一般的に広葉樹林を腐朽するものが多くセルロースやヘミセルロース、リグニンの木材の主要成分である全てを分解する。建築害菌としては、褐色腐朽菌に比べ重要ではないと考えられています。

代表的な褐色腐朽菌の一つにカワラタケがあります、日本工業規格の木材の耐朽性試験体として使われています。

 

③ 軟腐朽菌類

担子菌類が腐朽できない高含水率の木材の表面を軟化するカビです。電柱、杭など土中に使用される木材の地際に腐朽を生じさせます。建築的にみると褐色腐朽菌類や白色腐朽菌類に比べ重要ではないと考えられています。

 

  • 腐朽の条件

木材腐朽菌類が育つ条件は、栄養・水分・空気(酸素)・温度が適切な事、これらがそろわないと腐朽が難しいと考えられています。

① 栄養

セルロースはブドウ糖、ヘミセルロースはブドウ糖以外の糖が長くつながったもので腐朽菌の酵素によりブドウ糖等に分解され栄養となります。これらの成分は、木材の辺材部において心材部より多量に存在しています。

 

②水分

木材内部の空隙に侵入する水を自由水といいますが、自由水が無い状態では木材の腐朽は起こりません。繊維飽和点(木材細胞壁がこれ以上水分を含めない状態 )より10%から150%高いの含水率の範囲で腐朽は生じ易い。ただし、一部の菌は死滅するのではなく休眠状態を保っています。

 

③空気

木材腐朽菌のほとんどが酸素がないところでは生育が困難で腐朽は生じません。

 

④温度

低温では生育が遅く、適温で旺盛に生育し、高温では生育が急速に遅くなります。

0~50℃が生育できる温度です。適温詳細不明要調査です!!

 

 

  • 菌類の生育速度について

「人工栽培が可能な食用担子菌類の木材腐朽力評価 -富樫巌 著 · 2014」によれば・・・

「食用キノコを中心とした担子菌類の木材腐朽力の定量的な評価を試みた。JIS K 1571「木材保存剤の性能試験方及び性能基準」の実験系を参考にした小規模実験系を考案し,JIS K 1571の指定菌株のオオウズラタケとカワラタケの木材腐朽力をシラカンバ木片とトドマツ木片を用いて評価した。その結果,両樹種において25℃・12週間暴露後に30%を超える実量減少が確認できた。」とあります。

また、「人工栽培が可能な食用担子菌類の木材腐朽力評価/富樫 巌/打矢いづみ」によると

オオウズラタケとカワラタケでは「5日間の培養で直径52mmの平板培地全体を菌叢が覆った」とあります。これは理想的な状態で、菌糸がシャレ―全体に広がるのにかかった時間です。

また東京都立産業技術研究センター研究報告「バイオルミネッセンス法による腐朽木材中の担子菌の検出」によれば「オオウズラタケおよびカワラタケいずれの菌種も,

腐朽開始後1 週間までは試験片に質量減少が生じなかった」とあります。

 

以上などから推察すると、少なくとも水に濡れている期間が1週間程度で問題を引き起こす腐朽が起きることはなさそうです。

 

【結論】

木造住宅の腐朽を考える場合最も重要なものは水分であり、その他の条件がそろっていても水に長く濡れない限り腐朽することはありません。このことはシロアリも同様で木造住宅の耐久性を高めるには、濡れても良いが長く水に濡れることがない工夫、乾きやすい工夫が必要であり、足元が開放的な通風に優れた石場建は腐朽やシロアリに対し優れているといえます。どんな構法でもまったく水に濡れないようにすることは難しく、また逆に水に濡れないように密閉性を高めることはいったん入ってしまったら極めて水がなくなりにくくなり矛盾を抱えることになります。暴風雨など稀に濡れることはやむなしとして、濡れてしまった部分が速やかに乾くような作り方が大切です。